大事な事
カーテンから漏れる朝日で目を覚ましたロックオンは枕元に置いていた時計を見た。時刻は5時半、今日は休暇なので起きるにはまだ早い時間だ。もう一度寝直そうと寝返りをうった彼は隣を見て寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。
え、え?この状況なに?
そこには刹那の姿。寝ているときは普段の人を寄せ付けない雰囲気がなりを潜め年相応、いや、実年齢よりも幾分か幼く見える。疲れているのかかなり熟睡していて起きる気配はなく、丸まって寝ているその姿は猫みたいで可愛らしい。
あまりにも穏やかに眠っているものだから思わず手を伸ばしかけてロックオンはハッとした。今はそんな事を考えている場合じゃない、この状況をどうにかしないと理性がヤバい。本気で8つ年下の、しかも同性の子に片思い中の彼はこんな危険な状況のせいで理性が軽く崩れかけている。
こんな時間に起こすのはかわいそうだが自分のためにも、何より刹那の身の安全のために起こして自分の部屋に帰ってもらおう。うん、それが良い。
ロックオンはそう考えシーツを捲った。
「ッ!!??」
だがロックオンはシーツを捲ったことを後悔した。理性を保つために起こそうとしたのにそこには何も身に付けてない刹那がいた。これじゃあ理性を保つどころか崩壊を促進している。
頭を抱え込んだロックオンは必死に昨日の事を思い出そうとした。
ちょっ…昨日なにがあった、何で裸の刹那が寝てるんだ?!何でも良いから思い出せオレッ!!
しかし思い出そうとすればする程何も思い出せない。唯一思い出せるのはアレルヤとティエリアと刹那で珍しく4人揃って話をしていたらホロ酔い気分のスメラギさんが何故か知らないが大量のお酒とつまみをもって来てしかも未成年の彼らにお酒を勧め飲み会みたいなものが始まった。明らかに大人のする事じゃない。そこで何故か彼女と飲み比べになりボトルを4、5本空けたまでは覚えているがそれ以降の記憶がない。というかどうやって自室に戻ったのかさえもわからない。そして裸で眠っている刹那の経緯もわからない。もしかして手を出してしまったのだろうか、いやそれはないだろう、自分は服をちゃんと着て………いなかった。今更気付いたが上半身裸だ。そろりと被っているシーツを捲ってみたら案の定何も身に付けていなく朝から元気な分身がいた。元気なのは仕方ない、これは朝の生理現象だ。半分だけ。
「…マジかよ」
ロックオンは項垂れた。記憶がない部分の自分はどんなおいしい事をしたのだろうと、記憶のない今の自分を恨めしく思った。
その時隣で動く気配がして勢い良く顔を向けた。そこにはまだ寝ぼけ眼の刹那がぼーっとこちらを見ていた。
「お、おはよう」
「…」
とりあえず朝の挨拶をしてみるが反応はない。ロックオンは試しに刹那の髪に触れてみた。いつもなら触れようとした時点で怒るのだが今はその反応すらない。何度か髪をとき頬に手をもっていった。その時ピクッと反応したが、手を払い除けるどころか擦り寄って来たが予想外のその反応にロックオンはたじろいだ。これは期待しても良いのだろうか?
「刹那、キスしていいか?」
試しに言ったその言葉に刹那は微かに頷き瞼を閉じた。
正直こればかりは拳でも飛んでくるかと思っていたロックオンは内心ガッツポーズで舞い上がった。これはもう頂くしかないだろう、据え膳喰わぬは男の恥だ。
ロックオンは刹那に覆いかぶさると、額、瞼、頬にキスをし最後にそっと口唇に口付けた。最初は口唇の柔らかさを確かめる様に啄み、次第にそれは欲を駆り立てるかのように深く、舌を絡め取り快感を引き出していく。
「ふ、ぁっ…ん」
鼻から抜ける甘い声にロックオンはあまりなかった理性が崩れていく感じがした。
今まで内に仕舞っていた想いが性欲とともに溢れ出す。たったキス一つでここまで歯止めが利かなくなるのは初めての経験だ。
最後に刹那の口唇をペロッと舐めると唇を離した。このまま続きをしたい衝動に駆られるがその前に言っておきたい事があり刹那のとろんとした瞳を覗き込んだ。
「オレ、刹那に伝えたい事があるんだ」
いつになく真剣な眼差しのロックオンに刹那は目を瞬かせた。
「実はお前の事好きなんだ。8つも年が離れてるし、しかも同じ男からこんな事言われるのは気持ち悪いって思うかもしれない。でもこの気持ちには嘘はつきたくないんだ」
「……昨日の夜、同じこと聞いた」
「…え?」
「そしてオレはあんたの気持ちを受け入れた。逆にあんたもオレの秘密を受け入れたんだ。覚えてないのか?」
「…スマン」
一世一代のその告白は刹那のその言葉によって終わりを告げた。どうやら記憶がない間に想い人と結ばれていたらしい。一体自分のこの動機の早さはどうしたら良いんだろう、というか記憶がないって恐ろしい。
「刹那、あの、悪いけどもう一度教えてくれないか?」
「………」
その言葉に刹那は自分の上からロックオンを退かすと起き上がった。なんだか怒っている様に見えるのは気のせいだと思いたいが、きっと機嫌はあまりよろしくないんだろう。ロックオンはこのまま出て行くんじゃないかと内心冷や汗ダラダラだ。
でも起き上がった拍子にずり落ちたシーツから現れた白い体躯に目がいった。少年兵だったころの傷痕が所々あるがそれ以外は綺麗にバランスのとれた体付きをしている。それより一番目がいったのは男ならあり得ない胸の膨らみ。身体の成長期の時に栄養状態が悪かったのか全体的に小柄な刹那にしては手に少し余る程の大きさだ。
それに目を見開いているロックオンを見て刹那は口を開いた。
「…少年兵の頃は女だっていうだけでいろいろ不利だったんだ…これがオレの秘密だ」
「刹那…」
そう言って俯いてしまった彼、否、彼女をロックオンは引き寄せ抱きしめた。
「そんな大事な事覚えてなくてごめんな」
「…ん」
彼のその言葉に刹那は抱きしめ返し肩口に顔を埋めた。簡単に他人なんて信用できないけど彼なら大丈夫な気がした。でも密着したことでわかったロックオンの高ぶりに少しだけげんなりした。
「…あんたのソレ痛いからもうしない」
「?!せ、刹那クン?もしかしなくともやっぱりオレ君のこと抱いたのかな…?」
「………。やっぱりあんた最低だな」
「!!!!」
ちょっとしんみりした空気はどこ吹く風、刹那からの衝撃的告白にロックオンは固まった。お互い裸だったのはやはりそうゆうことをシたからだったみたいだ。
いつの間にか腕から抜け出し身支度をしようとしている刹那を慌てて腕を引き背後から抱きしめた。
「ちょ、どこいくんだよ」
「自分の部屋に帰る」
「こんな状態のオレを放っといて?」
「そんなの…知らない」
「酷いなぁ、オレはこんなにも刹那のこと愛してるのに」
「ッ!!」
耳元でそう囁き耳たぶを甘噛みした。もちろん左手は逃げない様に腰に腕を回し、右手で内股を撫で上げる。その瞬間ピクッと反応した刹那にロックオンは意地の悪い笑みを浮かべた。
「なぁ?刹那」
「し、知らない、勝手にすれば良いだろッ」
振り向かせたその顔は真っ赤に染まっていて表情の乏しい刹那には珍しい。だが表情とは逆に怒ったようなその台詞はおそらく彼女の中での最大の肯定の言葉なのだろう。ちゅ、と軽く口付けた後先程まで寝ていたベッドへ押し倒した。
「オレから離れれなくなるくらい気持ち良くさせてやるよ」
そう言うとやっと手に入れた愛し人に熱の籠った口付けを贈った。
fin.