最初はこいつにガンダムに乗る資格などないと思った
案の定違反を繰り返すその姿を見てそれは更に根強くなった
そんな奴はさっさとガンダムマイスターから降ろせば良いとさえ思う
だから嫌いだ
嫌い
心底そう思うのにいつも視界に入ってくる黒髪に目を奪われる
そして逆に黒髪を見ない日は無意識にその姿を探している自分に気が付いた
なぜ?自分はあの子供が嫌いだ
胸を燻るこの痛みも、触れたいという欲求も
意味が分からない
自分をこうさせている子供が、本当
気に入らない、何もかも
矛盾/前編
かたん
広くもない自室に響いた微かな物音で刹那は浅い眠りから意識を浮上させた。
微妙にぼーっとする頭で音のした方へ視線を動かせば暗がりの中入口付近に人影を捉え一気に意識がクリアになる。それと同時に跳ね起きると枕の下に忍ばせてあった護身用の拳銃を手に取り相手に向けた。その間にいつでも撃てる様にセーフティロックを解除するのも忘れない。
「間違っても撃つなよ」
拳銃片手に睨みつけていると聞き慣れたその声に眉をピクリと動かした。
一応拳銃は下ろしセーフティも掛け直したが視線は外さないままでいる。
微かに外から差し込んでくる光の場所へ移動し姿を現した人物に更に眉根を寄せた。
「…何故いる?ティエリア・アーデ」
「別に。俺の勝手だろう」
ふん、と鼻を鳴らしたティエリアに刹那は顔を顰めた。
普段から何かと反りの合わない二人は顔を見合わせれば無視するか口を開いたとしても罵詈雑言しか出てこない程険悪だ。だから互いの部屋を行き来することはまずないし、あったとしてもそれは任務等連絡事項を伝える為でもかなり嫌々で行く。
互いにそんな感じなのに何故彼がここにいるのかわからない。寧ろ何の用なのかと全身で警戒する。
野良猫みたいに警戒心丸出しの子供にティエリアはフッと嗤った。遊んでみるのも悪くない。
「そんなに俺が怖いか?」
「何バカな事を…用がないなら出て行け」
「出て行く出て行かないは俺が決める。それとも早く出て行って欲しい理由でもあるのか?」
「……ッ」
引っ掛かった。
鋭い目つきで睨みつけてくる子供に口元を歪めた。
この生き物は単純で面白い。すぐに感情が目に現れる。
ティエリアはベッドの上で起き上がったままの体勢でいる刹那に一歩一歩近付き目の前で立ち止まった。
そこでふと鼻についた嗅き慣れた匂いに思わず眉を動かした。それは戦争という名の殺戮を繰り返せば必ず覚える濃い香りで。任務のなかったここ数日ではあり得ないモノ。
「…血の、匂い?」
「!!」
思わず口を突いて出て来た言葉にビクンと揺れた目の前の体。
先程まで睨みつけていた目は今は俯き隠れて見えない。
明らかに何かありますと言っている様なその反応にティエリアは眉根を寄せた。
「何を隠している」
「あんたには関係ないだろう」
俯きこちらを見ないまま答えた刹那にティエリアは内から黒くドロリとしたものが滲み出るのを感じた。何故そんなものが出てくるのかわからなかったが、それが段々と苛つきに変わり、彼にしては珍しくその感情のままベッドへ自分よりも小柄なその体を引き倒した。
「!何をするッ!!」
「お前には関係ない」
「ッ!!」
そう言いながら掛けていた眼鏡を外した。
元が物凄く整っている分現れた鋭い眼を至近距離で見れば見る程迫力が増す。
刹那はあまり見る事のない眼鏡の奥に隠された瞳を見て背中に嫌な汗が伝うのを感じた。更にこれは危険だと頭の中で警告音が鳴る。
それを余所に眼下で口を堅く引き結び警戒の色をかなり濃くした瞳を嗤うかの様にティエリアは外した眼鏡をベッド脇にあった小さなテーブルに置くと細い手首を片手で拘束した。
「放せッ」
「お前の意見等知らない。俺の質問にだけ答えろ、この血の匂いはなんだ?」
「………」
じたばたと暴れるだけで頑に口を割らない刹那を眼下にティエリアはおもむろに空いている方の手を胸に宛てがった。それに気付いた刹那は更に暴れた。
「ティエリア、やめっ!」
「…お前まさか」
掌に当たる柔らかい感触。
男にはあるまじきそれにティエリアは服をはだけさせ目を見張った。
そこには服を重ね着すれば女だとバレない程小さいが、形の良い膨らみが存在を主張している。
「…この事を知っているのは何人居る」
ティエリアは押し殺した様な声で静かに呟いた。