We go round to you center entirely #01 これが日常


けたたましく鳴り響く目覚まし時計。
ベッドヘッドに置かれたそれを手探りで止めるとまたシーツの波に埋もれた。時間は確認してないがまだ寝ていてもきっと大丈夫だろう、そう思ってニ度寝の体勢に入る。だがそれを見計らってかドアをノックする音がした。

「刹那、朝だよ起きて」

ドア越しに聞こえて来た穏やかなその声に刹那はまだ重たい瞼を上げた。そしてカーテンから漏れる朝日に眉を顰めながら起き上がると寝ぼけてふらつく足でドアに向かいガチャッと開ける。そこにはエプロンを着けたアレルヤの姿。毎日ロックオンと交代でやっている家事はどうやら今日は彼の番だったらしい(ティエリアは破滅的な家事音痴、刹那は朝が苦手なので当番からこの二人は除外されている)。キッチンの方から香ってくるおいしそうな朝食の匂いに刹那はそのまま出て行こうとするが何故かアレルヤに止められた。不思議に思い長身の彼を見上げたら頬を赤く染め目線を逸らされた。

「刹那、とりあえず着替えてからおいで」
「?」
「さすがに朝からその格好は刺激が強すぎるよ…」

その言葉に今の自分の格好を見下ろしてみればキャミソールにショーツ姿。いくら同年代の女の子達より胸が小さいからといっても布一枚だけでは身体のラインがはっきりわかってしまう。裸に近いその姿に一気に眠気が飛んだ刹那は茹でタコみたいに赤くなると慌てて部屋に引き返した。残されたアレルヤは脳内で『朝からラッキーだな』と愉快そうに響く声を振り払う様に頭を左右に振るとキッチンに戻って行った。

「アレルヤ、刹那は?」
「…、今着替えてるよ」

既に朝食に手を付けていたティエリアは紅茶を飲みながら一人で戻って来た彼を見上げた。だがほんのりと頬を染めて言い淀んだアレルヤに微かに眉根を寄せ、キランと眼鏡を光らせば温厚な彼はわたわたとたじろいだ。

「ふぁ〜、二人ともおはよーさん。って何してるんだ?」

眼力と無言の重圧で口を割らせようとしていたティエリアは暢気に入って来たロックオンによって場を崩され、はぁと息を吐いた。

「…別に」
「お、おはようロックオン」

ふんと冷たく言い放つティエリアと微妙にたじろぐアレルヤの対照的な姿に疑問符を浮かべながらロックオンは自らの席に着いた。それに合わせて運ばれてくる朝食に目を奪われながら目の前の席に居るはずの人物が居ないのに気付き口を開いた。

「あいつまだ寝てるのか?」
「いや、今…」
「起きてる」

アレルヤが答えようとしたそばで少し高い声が遮った。その声の方へ三人とも顔を向けると制服姿の刹那が立っていた。紺色のブレザーを片手に同じ色のプリーツスカートは膝上、第二ボタンまで開けられたブラウス、そしてそれに合わされたネクタイ。その姿を見た三人は目を見開き同じことを思った。

(((せ、刹那がスカートッ…!!!)))

普段から制服でもズボンしか履かない刹那が珍しくスカートを履いているその姿は、よからぬ想いを寄せている彼らにしてみればスカートから覗く白い足とちらりと見える胸元は朝からはとてもとても目の毒だ。そんな想いなんてまったく知らない刹那はロックオンの前の席へ座った。

「…何だ?」

目の前の同居人達が揃いも揃って同じ表情で自分を見ているのに気付いた刹那は小首を傾げた。不思議そうに見てくるその表情は何とも可愛らしい。朝からキュンとなっていた彼らの内逸早く再起動したアレルヤは刹那の前に朝食を並べながら耳元に口を寄せた。

「さっきは不可抗力だったとしても下着姿見て悪かった、でも可愛かったぞ?」
「!!」

その言葉に頬を染め勢い良く見上げた。既に離れてグラスにミルクを注いでいるアレルヤは普段と何も変わりはないが、一瞬だけ見えた彼の目が金色だったのはきっと気のせいではないだろう。たまに出てくるもう一人の『彼』はアレルヤとは対極の性格をしているからこちらとしてはたまったもんじゃない。とりあえず意識を目の前の朝食に移すとこんがり焼けたトーストに齧りついた。

「刹那、今日はスカートなんて珍しいな、何か理由でもあるのか?」
「…あんたに関係ないだろ」

モグモグとトーストを咀嚼しながら刹那はロックオンの質問を切り捨てた。その間一度も彼とは視線を合わせていない。それに多少傷つきつつロックオンはめげずに会話を続けようと口を開いた。

「じゃあさっきアレルヤと何かあったのか?」
「!べ、別に何もない」
「ホントかぁ?なぁ、アレルヤ」
「あはは…」

エプロンを外し自らも食事に手を付けていたアレルヤにロックオンは話を振った。それに乾いた笑いを浮かべるが、ロックオンのニヤリと笑った口元とは裏腹にその目は何があったか言えと語っていた。ついでにティエリアも同じことが気になっていた為思いっきり見てくる。いつもならこの時点でアレルヤの方が折れるのだが、如何せん想いを寄せる刹那のこととなると意地でも譲れない。寧ろ彼女の不利になるようなことは口が裂けても言いたくない。水面下で火花を散らしていた三人は次の言葉で動きを止めた。

「それ以上追求するなら嫌いになるからな」
「刹那悪かった」
「それにアレルヤもさっきのことは記憶から消して」
「わかった」
「ティエリアは気になっても気にするな」
「…あぁ」

三人ともにそう言い聞かせると刹那はよしと頷いた。16歳の少女に頭が上がらないのは年上としてはどうかと思うが惚れた方が負けな現状では仕方がない。

「ごちそうさま」
「もう行くのか?」

いつの間にか全てを平らげていた刹那は食器をシンクへ片付けていく。その姿にティエリアは声をかけコクンと頷いた彼女を確認すると自分も同じ様に片付けていった。

「朝と帰りの電車程危険な場所はないから俺も一緒に行く」
「…別に大丈」
「最近何かと物騒だから一緒に行きなよ」
「そうだぞ刹那、いざとなったらティエリアを盾にするんだぞー」
「…」

言葉を遮ってまでそう言って来た二人に圧され渋々と言った感じで刹那は頷いた。最近は女性専用車両があると言ってもそれに乗ろうとしない(化粧や香水臭いと言って乗らない)刹那をほぼ男で埋まっている満員電車の中に一人で居らすのはオオカミの群れに羊を投げ入れるようなものだ。だからティエリアが一緒なら彼の性格上変なことをしようとするヤツを容赦なく撃退してくれるだろうと踏んでちょっと悔しいのもあるが二人揃って賛成したのだった。

「刹那おいで」

ロックオンはバタバタと準備していた刹那を呼び寄せると緩んでいた胸元をキッチリ閉めてネクタイも直してやる。たまにこうして素直に自分の言い分を聞き入れてくれる彼女がなんとも可愛らしい。思わず頬にちゅっとキスをしたらすかさずアッパーをお見舞いされた。

「それじゃあ行ってくる」
「二人とも行ってらっしゃい」
「気をつけろよー」
「…いってきます」

二人を見送った後ロックオンは溜め息を吐いた。そして食後のコーヒーを啜る。

「はぁ、結局スカートの意味解らずじまいだったな…」
「そうだね」
「もし俺たちの知らない男の為とかだったらどうするよ?」
「その時はーー全力でソイツをぶっ飛ばしに行くに決まってんだろ」
「!…ハレルヤ、いきなり出てくるなよ」

突然口調も雰囲気も変わった彼にロックオンは多少驚きつつまた溜め息を吐いた。ちらりと盗み見ればふははと笑っている彼の姿。たまに入れ替わるアレルヤとハレルヤに慣れたといっても彼の雰囲気にはなかなかなじめなかった。



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