We go round to you center entirely #02 疑問


あれからティエリアと一緒に電車に乗ったのだが予想以上の満員電車で二人共ドア付近にギュウギュウに押し寄せられた。
ティエリアは出来る限りドアに両腕を突っ張り潰れない様その間に刹那を収めた。背が低く小柄な刹那は周りからすっぽりと隠れもし彼がいなければ押し潰されていただろう。

そんな状況からやっと解放され、校舎前で彼と別れた後自分の教室へと向かった。
ちなみに刹那の通う高校とティエリアの通う大学は同じ敷地内にある。所謂エスカレーター式の学校だ。

「刹那ー」

ぐったりとしながら自分の席に着いたと同時に呼ばれた名前に顔を上げた。
そこにはこちらに来るルイスの姿。長い金髪を靡かせながら来るその姿は可愛らしい少女そのもの。そしてその後ろでは明らかに強引に連れてこられましたという顔をしている沙慈は困った感じに苦笑しながら手を振っている。
相変わらずゴーングマイウェイな彼女は今日も絶好調のようだ。

「今朝一緒にいた男の人ってだぁれ?」
「……」

ニコニコと満面の笑みで聞いてくる彼女に刹那はすこし引いた。
こうなる事は予め予想できていたのだが、まさかいきなり単刀直入で聞いてくるとは思っていなかった。
刹那がなかなか答えようとしないのでルイスは更に言葉を続ける。

「あの人って確か入学式の後に刹那を迎えに来た人よね?」
「…ん」

コクンと頷いた刹那を見てルイスはその時の事を思い出した。



ーーそれは桜舞う頃。
入学式が終わり割り振られたクラスで担任からこれからの学園生活についての注意事項やその他諸々の説明を受け、初めてのHRが終わった。
この日はそれだけで授業は次の日から。この後はもう帰るだけとなった今、クラスメイト達は中等部から一緒の友人と話たりして所々グループができている。
そんな中、窓側の席で一人だけ黙々と帰る準備をしている者がいた。クラスの何人かが話しかけたが自己紹介ともあまり思えない名前だけを言っただけで、あとはほぼ無反応。そして無表情。その内クラスメイト達は離れていき1人だけになっていた。
その時ガラッとドアがあき、ざわざわと騒がしかった教室は一瞬で静まり返った。

『刹那、いる?』

静かになった教室に響いたその声にクラス中の視線が入口に集中した。
そこにはすらりとした長身の美人。眼鏡から覗く瞳は特徴的な紅、さらりと流れる紫の髪、顔立ちは中性的でそれだけだと性別は判断しにくいが、それなりに低い声と胸がないことでその人が男だとわかる。
その姿にクラスの女子達は頬を染め色めきたち、あちこちで友人たちとあの人誰?かっこいいとか刹那ってどの子?などと囁き合う。
そんな中、ガタッと椅子を引く音がして入口からその音の方へ視線が移動した。
そこにはずっと一人で窓側にいた少女が立っていて徐にカバンを掴むとそのまま彼のいる入口へ向かった。
皆が注目する中その少女は入口で立ち止まると目の前の人物と2、3言言葉を交わすとそのまま教室を出て行った。
その後を追いかける様にその人も踵を返したのだが、教室のドアを閉める際先程の少女に目が釘付けになっていたクラス中の男子達を一睨みして去っていったのはかなり濃く印象に残ったのだった。(ちなみにその少女は刹那だ)
あの後クラスに沈黙が降りたのは言うまでもない。




ーーという事があった。

「その時からずっと気になってたんだけど、その人とどういう関係なの?恋人?」
「違う。ただの…」
「ただの、何?」
「…ただの、知り合いだ」
「えー、ただの知り合いなはずないじゃなーい」
「ル、ルイス、セイエイさん困ってるよ」

苦しい言い訳は刹那より上手なルイスに通用しなかった。
目をキラキラさせながら追求してくる少女を後ろから一応咎める沙慈。でもこういうときの彼の意見は基本スルーされる。
それでも止めようとする彼はなんと健気なんだろうと鈍感な刹那でも思ってしまう。
とりあえずルイスの追求をあーだのうーだの言いながら時間を稼いでいたらHR開始の本鈴が鳴り響いた。それと同時に担任のスメラギ・李・ノリエガがが入って来て話は運良く中断された。
それにホッと息をついた刹那は椅子の背に凭れ掛かった。

「はーい、出席取るわよー」

朝だというのにその気怠げな声に目だけ向ければ今日も相変わらず胸元の大きく空いた服装の担任が欠伸しながら名簿片手にペン回ししていた。
毎朝見るたびにこの担任は教師に向いてないんじゃないかと思う刹那だった。







あれから授業の合間合間ルイスから必死に逃げた刹那はなんとか放課後まで持ちこたえた。精神的にかなり息絶え絶えだ。
別にルイスにバレたとしてもそれを言いふらす様な人間ではない事はわかっているので良いのだが、その後のプライベートな面での質問攻めが確実に待っていると思うとどうしても口を割れないのだった。

とりあえず学校を出て駅までの帰り道。
いつもの様にぼーっとしながら帰っていた刹那は角を曲がった瞬間誰かにぶつかってしまい、小柄な身体は後ろへと尻餅をついてしまった。

「ッ」
「おっと、これは失礼…!」
「君大丈夫かい?」

発された声は低く男の物。おそらくぶつかってしまった人物とその連れなのだろう。
刹那はゆるりと顔を上げると目の前に差し出された手に数回瞬いた。そしてその手を追えば茶髪でポーニーテールの人とその後ろで目を見開いている金髪碧眼の人がそれぞれ反応は違うものの自分を見ていた。

「…大丈夫、です」
「そうか、連れが失礼したね」

どうやらぶつかったのはこの茶髪の人ではないらしい。とりあえずその手を取り立ち上がった。
自分がぶつかったわけでもないのに申し訳なさそうにしている姿に好感を覚える。
その時後ろに居た人物がスッと前に出た。

「先程はぶつかってすまなかった。私はグラハム・エーカー、間近で見ると更に君は美しい。是非私と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「は?」
「グ、グラハム?!」

グラハムと呼ばれた金髪碧眼の男はいきなり刹那の手を取ると何を思ったかそうのたまった。
その言葉に刹那は意味が分からないという表情で見返し、彼の連れはかなり慌てている。

「今この瞬間、君に出会えたことに運命を感じられずにはいられないよ。だから是非私の恋人になって欲しい」
「グラハム!君は正気なのか?!」
「正気だとも。乙女座の私は運命を感じたんだ!」
「彼女はまだ学生だぞ?!!」
「………」

突っ込みどころはソコなのか。とりあえず結婚云々は止めないのか。
何なんだこの人たち。かなり怪しい…危険だ。
そう本能で判断した刹那は言い争いに夢中で手を放されたのを確認すると気付かれない様にちょっとずつ離れていき、二人の声が聞こえ辛くなる程度離れたら一気に駅まで走って行った。

「だからいつまでもビリーはポニテなんだ!」
「それは全く関係ないだろう!!…あ、彼女いませんよ」
「あぁぁ、何処へ行ったんだい?!」
「…あなたに引いたんですよ」
「はッ!名前聞いてなかった!!」
「………(聞いてないし)」

言い争いは関係ないとこまで発展しそれに夢中になっていた所、ビリーと呼ばれた青年がふと横を見た時既に刹那は逃げた後だった。
それを言えばグラハムは嘆き項垂れたがその目は恋する乙女みたいに燃えていてというか正しくそれで、一言で言えば気持ち悪かった。
この後目の前の人物に扱き使われる事を想像し半分諦めの境地に立っていたビリーだった。



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